日本国内における人口1000人あたり医師数は約2人となっており、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均である3.1人と比べて著しく少なくなっています。日本でこれほど人材不足に陥ったしまった理由には、まず政府の経済を優先した政策を導入したことが挙げられます。大学の医学部には定員がありますが、国の許可なしに大学側が勝手に増員することはできませんし、国は医師国家試験の合格者を絞って医師数を発表することも可能です。つまり、国が認めない限り医師の数は増やせないのです。

対策の一環として2008年度から、青森、岩手などの医師不足が特に深刻な10県において、最長10年間に渡って医学部の定員を増加し、また僻地や離島での勤務医を養成している自治医科大学でも同様の上乗せが認められました。しかし、現場の立場で見ると年間100人程度の増員では焼け石に水としか思えません。

日本は団塊世代が高齢化し、超高齢化社会に突入しようとしています。高齢化は世界的な傾向で、長寿自体は大変喜ばしいことでしょう。しかし、体力が低下し、多くの病院を抱えやすい高齢者が増えるのですから、今以上に医療需要が増すのは当然です。既に医療崩壊を起こしてしまったイギリスでは、それでも影響を食い止めるために医学部の定員の50パーセントの増員を実施しました。日本の50パーセントといえば3000〜4000人ですが、それが100人ではいくらなんでも少なすぎます。日本の医師の絶対数は不足しています。それを補っているのが現場スタッフの過剰労働なのです。

医療現場から去る医師が多いことも医師不足に拍車を掛けています。医師の毎日の長時間勤務はあたりまえで、オンコールの呼出しで休日に病院へ駆けつけることもあります。日本医療労働組合の調査では、7割以上の医師が日勤に続く当直明けに再び日勤に入る32時間の連続勤務を月3回以上も行っています。この記事はヤフーなどのポータルサイトなどでも盛んに報じられたので、多くの方がご存知だと思います。

医師のみならず看護師も含めて医療スタッフの大半が、疲弊しきった状況で治療にあたっています。これでは医療ミスが起こらないほうが不思議なくらいですが、スタッフの必死の努力でそれを防いでいるのです。それでも、患者さんはひとりひとり年齢も体力も異なります。小さなミスを発端に場合によっては大きな医療過誤が起こる危険は常にあるわけです。そして、医療過誤で病院や医師が訴えられるケースも年々増加しています。人手の不十分な態勢で救急患者を受け入れるのはリスクが高すぎて、受け入れ不可能ということも起こります。

また、最近は患者さんの権利意識が高くなり、無理な要求を突きつけられることも少なくありません。医療とは不確実性と限界を常にはらむもので、残念ながらどんなに手を尽くしても治せない、命を助けることもがきない場合もあります。しかし、そのような医療の不確実性を理解しない人が増えたのか「治療を受けた以上は治るはずだ。治らなかったのは医療ミスだ。」と、医師側からみればいわれのない責めを受けるケースが年々多くなっています。このような過酷な状況の中で、自分を支えきれなくなった医師が現場からどんどん去っていくのです。その減少は、勤務の過酷な小児科や訴訟リスクの高い産科からはじまり、麻酔科や内科、外科へと広がって、医師不足は深刻化する一方です。

病院をやめたら開業医になる医師も多いので、医師不足にはならないのではないか?と思われる方も少なくありませんが、特に都市部では開業医も過当競争が起こっています。実際は病院の勤務医を辞めた医師の全てが開業しているわけではなく、その多くはそれまでの病院より少しでも勤務条件が楽な病院(救急の患者さんを受け付けていない病院等)に移ったり、日中だけ外来のアルバイトをするなど、厳しい当直をしなくてもいい仕事に就いています。つまり勤務医の絶対数が不足しているため、そのような働き方も可能で、皮肉なことに常勤で当直をこなしていた勤務医の頃よりも多くの収入が得られるというケースもあるのです。とにかく医療の質の低下を防ぐためには、医師を増員して勤務医が辞めなくても済むような労働環境の改善が必須だと考えます。

医薬品の臨床試験(治験)を実施している医療機関のモニタリングを中心に、データ入力、データ統計解析などのサービスを製薬会社に提供するCRO(医薬品開発業務受託機関)は、製薬会社の業務効率化に伴って、売上を伸ばし、近年、急速に成長しています。

日本の医療現場は世界の水準と比べるとお金がかかっていないことを知る必要があります。国民の多くは、病院で払う個人の窓口負担が世界で一番高額となっている一方で、病院の収入が先進国で最低ラインであることを知りません。これは国が真実をありのままに国民に伝えようとしていないからです。これまで医療者は医療際策に無関心で、残念ながら積極的に発言してきませんでした。しかし、今こそ医師が声を上げるべきだと思います。世界一の超高齢化社会を目前に、国民が安心して受けられる医療を実現するためにはどんなことでも医療崩壊を食い止める必要があります。

それでは患者さんが何ができるかというと、まずは医療や福祉の問題に関心を持っていただくこと、次に行政に対して医療の充実を要求することだと思います。例えば、選挙の際に公共事業で地域を活性化するという候補者と、医療体制を充実させるという候補者、どちらに票を投じるか…。自分や家族の健康が失われてからでは手遅れです。医療は命の安全保障といわれています。医療者と国民の連携で医療崩壊を食い止めましょう。

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